香川県高松市の谷口歯科医院。お口の機能と細菌叢から口と全身の健康にアプローチします。

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メタゲノム解析を感染根管治療に活かす

歯の根っこの治療には、しばしば時間を取られます。歯の根っこの先に膿の袋ができ、その洗浄と消毒に時間を要するためです。この根っこの膿の袋を「根尖病巣」とか汚染された歯の神経管を「感染根管」と呼んでいます。

この感染根管ですが、実のところどんな細菌が感染しているのかよく分かっていません

教科書的にはどんな菌がいるのか分かっているのですが、これは何十年も昔に培養で一生懸命調べた結果なのです。ですから、培養して生えてこない菌は分かっていません。生息する菌がよく分かっていないから、とりあえずどんな菌にでも効く消毒薬を使用することになります。 もしどんな菌がいるのか正確に把握できれば、より選択的に作用するお薬を使用することが可能になると考えられます。

※培養して菌を調べ、よく効く抗菌薬を使用する場合もありますが、培養出来る菌は一部ですから全ての菌に効くかどうかは分かりません。

感染根管の細菌叢解析

メタゲノム解析を行うと、1根管ごとの細菌構成が分かります。(文字の大きさで菌の割合を示しています)

感染根管細菌叢1

根尖病巣細菌叢2

感染根管メタゲノム解析

嫌気性菌が多いのは想像が付くのですが、乳酸菌(Lactobacillus)が多い人がいたり意外な結果が得られます。

感染根管の細菌叢解析4

上のケースでは、もっと細菌構成が複雑で歯周ポケットから検出される菌が多く検出されています。このような場合は、根の先で根管と歯周ポケットがつながっている可能性が考えられ、歯周病の治療も視野に入れると良いかも知れません。

このように患歯ごとに細菌構成は大きく異なります

メタゲノム解析を行うと詳細な細菌構成を歯科医師が把握できるようになります。今までこれを把握することが出来ませんでした。
例え、教科書的に正しい菌の種類が分かったとしても、患者さん毎に違っていればそれは全く意味を成しません。
この細菌叢情報をもとに、それぞれの細菌によく効く薬を選ぶことができれば、より効果的な治療が行えるかも知れません。

しかし、薬への抵抗性が既知の菌ばかりとは限りません。全く持って未知の菌も多数検出されますから、培養できる菌は培養して有効な薬剤を調べデータベースとして整備する必要があります。また、培養できない菌は直接調べられませんから、薬を使用した際の細菌叢変化からどのような薬が有効であったかを地道に記録していくことが大切だと考えています。

 

根管充填時の細菌構成を把握する

ある患者さんの感染根管治療による細菌叢の変化を追跡したデータを示します。7回目で治療を終えるまで、洗浄を繰り返しました。治療により細菌叢の構成が単純化していくことがよく分かります。

感染根管細菌叢の推移

感染根管の治療では、最終的に無菌を目指して洗浄・消毒を繰り返します。

培養試験をして無菌になったと言う場合もしばしばありますが、もともと培養できない菌は生えてこないので真に無菌かの証明にはなりません。 そのため、これまでは臨床症状(痛み)、浸出液、根管の臭いなどから総合的に判断して治療を終了していました。無菌を目指しても完全に無菌にすることが難しいことも分かっています。

そして、どんな菌を残してしまっているのか把握はできませんでした。

メタゲノム解析を行えば根尖に残してしまった可能性のある菌を調べることができます。

そして、この残した細菌と予後との関連を調べて行くと、残しても問題無い細菌残してはならない細菌が特定できるのではないかと考えています。

例えば、上の図は7回目に感染根管治療を終え、根管充填を行いました。
これで予後が良好であれば、この細菌を残しても問題無い可能性が考えられます。
しかし、もし予後不良であればこの細菌を残すのは良くないということになります。

※もちろん、患者さんの免疫力、咬合力、被せ物からの細菌の侵入などの影響を受けるので一概には言えません。また、もし再発すれば、根管充填時の細菌叢と再発した細菌叢とを比較することで、何が起こり、何が増えたのかを推定することが可能になり、よりよい治療法の確立につながるのではと考えています。

残しても良い菌、だめな菌が明確になれば、菌を調べることで根管充填の時期を決定できるようになるかもしれません。

 

全身疾患との関連を調べる

下のデータは、ある患者さんの感染根管から採取した菌を調べた結果です。

脳膿瘍と感染根管

70%近くを「Phocaicola abscessus」という菌が占めていました。馴染みの無い菌ですが、唯一「脳膿瘍(脳に膿がたまる)」からの検出報告がありました。
一般に脳膿瘍の原因菌を探る場合も培養法で行われることが多いため、培養陰性・原因不明ということが多々あります。また培養が陽性でも本当に原因かどうか分からない場合もあります。今後、脳膿瘍のメタゲノム解析を行い、そして歯科で口腔細菌叢のメタゲノム解析を行い、双方で相関があればより強い証拠を示せるようになるのではないでしょうか。

近年、歯の根尖病巣が歯とは歯なれた場所(腎臓など)に病気をもたらす「病巣感染」という考え方が再燃してきています。その関連を明らかにするためにもメタゲノム解析による感染根管細菌叢の解明が有効だと思います。

 

感染根管細菌叢の解析を受け付けています。

興味のある歯科医師はぜひMetaDENTprojectを通じて検体をお送りください。検査とまではまだ言えませんが、それにちかい形で解析結果をお送りいたします。治療の参考、根充時期の判断の参考にしてください。

MetaDENTproject